映画「search/サーチ」を見た。感想を書きます。


2018年公開、アニーシュ・チャガンティ監督のスリラー映画。
全てのシーンがPCの画面のみで構成される」という異色の映画。
予告編を見て、ちょっと気になってた作品だったので今更見た。

アニーシュ・チャガンティ監督はこれがデビュー作とのこと。
公開当時27歳! 俺の10コ下か! 若いな!
しかし「若者にしか撮れない」現代の切り取りかただと思う。

「PC画面のみで構成」という表現は「POV方式」とかと同じく、
面白い手法であると同時に、弱点が明白な偏った構成だとも思う。

その長所・弱点を明確に作り手が理解したうえで、
「長所」を「テーマ」と紐づけて意味を持たせ、
さらに「弱点」を演出・脚本でしっかりカバーすることで、
ようやく「一発ネタ」に陥らずに済む……というリスキーなトリック。

そうした意味で、本作は凄く工夫が凝らされており、その点、強く賞賛したい。

もう見るからに「脚本、練りました!」って感じバリバリの作りで、
正直ちょっと鼻につくところもないではないが、
よくある「練り過ぎてムリがある」というアレには堕ちてない範囲に
納まっており大変好感触。

伏線がガッチガチに丁寧な分、「この何気ない描写が
後に伏線になってくるんだろうな」という観方をするタイプの
伏線フェチの人なら結構ネタは割れてしまうと思う。

そして中盤でネタが割れたら評価に影響するタイプの作品でもある。
ただ俺個人としては、多すぎる伏線に攪乱されてしまって逆に虚をつかれた。

冒頭、PCの画面上に流れる文字と動画だけで状況説明が始まる。
このテンポの良さは素晴らしい。本作は全体的にカット割りが早く小気味いい。
「仲良し家族だが奥さん死んだ」という説明を最小限の時間で済ませる。
デキの悪い映画ならここに30分かかるからな。

PC画面は言うまでもなく無機質だが、その中でも
カーソル移動や文字の打ち方で感情表現をしていて見事。

書きかけた文章を、リアルタイムで帰ってきた相手の
 返事に合わせて修正する」あの感じとか、見事なSNSあるあるで感心した。
怒りの長文を書いてから、投稿せず全消しするのもそれっぽくて面白い。

あと、どうでもいいが打鍵早くて、見てて気持ちがいい。
主人公の仕事の描写があるおかげで打鍵の速さが不自然でないのもよい。

「パスワード忘れた場合」のリンクからたらい回しにされる展開も
これまたあるあるで最高に面白い。
このあたり、ソーシャルハック的な面白さがあってゾクゾクする。

娘の「意外な側面」を父が垣間見てしまう描写はちょっと気まずさもあって、
見てて悲しい気持ちになった。自分の親に生配信見られるのキツイわ。
一人メシ食ってるのとか、友達居ないのとか、切ないよな。

娘と「そんなに親しくない」といってた女が後で、
「親友だったの」と泣く動画を流して再生数を稼いでいるの、
いかにも現代的な皮肉で胸糞悪くて大変良い。

誘拐事件が明るみに出てからの「ネット上の他人の無理解」や
「他人事であることの無慈悲さ」は、「ゴーンガール」を思い出した。
まあアレほど嫌な感じでないが、やっぱ現実と地続き感がある。
表現に多少の既視感はあったが決して陳腐・平凡な描写ということではなく、
しっかり説得力とリアリティがある。

話の筋や展開、ツイスト、更にどんでん返し要素を含めても、
冷静に考えればそれほど奇抜なサスペンスではない。
このありきたりの筋を面白く見せるために、至るところに仕込まれた
工夫を読み解くのが楽しい作品と言える。

映画序盤で、正直「こういう展開になったらダリーな」と思う展開予測が
自分の中にあったが、それはキレイにスパッと裏切ってくれて嬉しかった。

女捜査官が主人公を慰めるために語るエピソードのシーン、
伏線と気付かせない工夫がこらされてて、とても良かった。
(まあ逆にここで色々気づいちゃう人もいるだろうなあ)

あと主人公の弟と娘の間のLINE会話から疑いをかけるシーンも、
ミスリーディングの工夫が凝らされてて、ミステリとしてよくできてるなーと。

不満点はそんなにないが、犯人の自白から急展開するところで、
遺体も出てきてないのに死亡確定しちゃうの? って点は引っかかった。
まあアメリカだとそんなもんなのかな? 分からんけど。

「時代性の反映」という要素と「スリラー」及び「壊れた家族の再生」という
時代を問わない普遍的な要素がガッチリ噛み合った傑作だと思いました。
100分チョイという長さも絶妙で良い。ラストは素直に涙ぐんじゃったよ。