買ってから半年くらい本棚で寝かせてた「追想五断章」、いざ読み始めたら
手が止まらなくてスルスル読み終わっちゃいました。
感想を書きます。

割とがっつりネタバレするので、未読の方はご注意ください。

■前置き

2009年刊行の作品で、青春ミステリで有名になった米澤穂信氏が
初めて「青春去りし後の人間」を描いた作品として話題だったらしい。

俺はシリーズものを避けて読んできたため
「満願」、「儚い羊たちの祝宴」しか読んでいない。
なので青春ミステリのほうの作風を全然知らなかったりする。
そういや京アニの「氷菓」も観てなかったなー。

■あらすじ

大学を休学し、伯父の古書店に居候する主人公が
ある女性から、死んだ父親が書いた五つの物語を探す依頼を受ける。

調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件の容疑者
だったことがわかり――というあらすじ。

■感想

まず、アホみたいな感想だけど、リドルストーリーって凄く面白い手法だよなーと。

どうオチをつけても「オチが無い状態」よりつまんなくなるという
量子力学みたいな構造が興味深い。存在自体がミステリじみている。

著名どころでいうと、個人的にはモフェットの「謎のカード」が好き。

アレ、今風に言ってしまえば「投げっぱなしエンド」なんだけど、
こういう作劇を楽しめることが「豊かさ」なんじゃないかと思う。

「リドルストーリーを扱ったミステリ」というのは
素敵な着眼点だと思う。他にもいっぱいあるのかも知れんけど。

各リドルストーリーの「最後の一文」が存在しているというところから、
もしかして占星術殺人事件ばりにテレコになってくのかしら、と思った。
そして実際そうだったけども、そこに込められた「意図」については
読んでて全く思い至らなかったなー。面白い。

謎が解けても「膝を打つような爽快感」って感じではなく、
じんわりと亡くなった作者の意図に想いを馳せるしかない。
どちらかというと虚脱感のほうが強かった。これはいい意味で。

あ、そうか、冒頭の可南子の作文も「リドルストーリー」なんだなー。
最後まで読み切ってから、冒頭を読み返して、ほうとため息をつく。
これは中々いい読書体験でした。

キャラクターを見せるタイプの話ではないので仕方ないけども、
主要人物は総じて魅力が薄い。

これは「キャラクターが立っていない」のではなく、
ちゃんと内面や人間味をキッチリ描いたうえでのこと。
なのである程度、意図的なんだと思う。

登場人物同士の関わりも淡白過ぎるほど……というか
全体的にギスギスしたやりとりが多い。
心温まるような部分はほぼほぼ皆無である。

更に時代設定がバブル崩壊直後、ということで、
ものすごく陰鬱で退廃的なムードが全体を支配している。
起伏・抑揚が弱いとすら言ってもいいかも知れない。
ここは好みが分かれるところだと思う。

「儚い羊たちの祝宴」はキャラが異様に立ってたし、
「満願」は話が概ね短いので気にならなかったが、
「雰囲気とキャラの両方が暗い」というのはなかなか気が滅入るものがある。
特に「探偵役」が鬱々としてると、読んでて同調してしまうのよな。

なので「大バッドエンド」ってワケでもないのに、読後感はじんわりと悪い。

まあとはいえ、事件を機に主人公の人生が変わった、みたいな
ポジティブ後日談入れられたら完全なる蛇足なので、本作はこの在り方しか無いんだと思う。

この暗さや起きている事象の地味さにも関わらず、本当に
「読み進める手が止まらない」って感じになったので、
やっぱとんでもねえ筆力なんだと思う。

今度は「ボトルネック」か「インシテミル」も読んでみようかなー。
「Iの悲劇」なんかも良さそうだのう。