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外国人相手の唯一の遊郭である長崎丸山に生きる遊女の、
哀しくも美しい愛の物語(なんて月並みな惹句だよ)。

ということで、「蝶のみちゆき」。
今回なんとな~くKindleで買ったので読んでみました。
感想を書いていきます。それではどうぞ。

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まずこの雰囲気ある導入よ。

意味深な比喩と美しい街並み。端正な作画に目を奪われる。
わずか3ページで作品世界に連れて行かれる感覚があった。
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遊郭だけでなく、現代の風俗ものとかでも思うけど、この
女性が乳ボローン出して男の陰口言うシーン、独特の味わいがあって好き。

「客ば取りとうなかてあるか!」と軽く折檻されてるが、
そこまでエゲつない感じじゃなくてホッとした。
「いちげき」の脱走女郎が拷問されるシーンとかひどかったからな。
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嫌な客もたらしこむ、魔性の花魁が主人公。
一人称「わっち」はいいですねえ。

このジジイがまた割とガチでクソジジイなのでだいぶ腹立つが、
愚痴の内容がまたショボくて、普遍的な「弱い男」の哀しさがある。
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1800年代の物語として、主眼ではないが「幕末もの」としての一面もあって、
勤王志士が来てどうこう、みたいな話も出てくる。

まあ長崎の出島が絡むんだし、出てこないほうが不自然か。
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遊女たちの悲哀も当然描かれる。

「苦界」という言葉が指すように、平均寿命が20いくつという世界。
妊娠も性病もマトモに避ける方法が無い時代である。
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「鷹の名にお花お千代はきつい事」でお馴染みの梅毒。
村上もとか先生の「JIN-仁-」でもしこたま描かれてたけど、
当時の梅毒は外見に変質を齎すエグい死病だった。

本作ではそこまでグロいことは描かないが、死の暗示として表現される。
つい「誰かペニシリンはよ」と詮無いことを考えてしまうぜ。
医学の発展した時代に生まれて良かった、と思ってしまう。
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現代ですら、水商売や風俗の女性と、男の気楽さの対比はグロテスクなまでだが、
当時はどれほどのものだったんだろう、と思いを馳せずにはいられない。
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このシーン、なんかこう、なんともいえない生々しい気まずさがあって
ドキドキさせられた。

トーン先生は実在人物のアントニウス・ボードウィン軍医がモデルらしい。
ウィキペディア見たら太田胃散の生みの親みたいな人らしく、
なんかこういう「現代と繋がる要素」ってグッとくるよね。
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トーン先生まわりは最後までこう、なんとも救いようのない関係性のままで
終わるので、割と切ない気持ちになってしまう。
決して悪い人じゃないというのが分かるだけにつらい。

好きな女に利用されるの傷つくんですよ! ホントに!
ホンマ堪忍してほしいわ!(唐突な逆上)
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この会話、すごく心に残ったなー。

どんなに恨んでいても、死ぬ前に会いに来てほしい、という。
この後の、匂いや爪紅を気にするシーンも実に良い。
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「苦界」せなく「苦海」と表記するのは、より宗教的ニュアンスが強いだけに
より普遍的な、現代でも適用できるテーマのような気がする。
適当なことを書いていますが。

とにかく、単純にひとつの悲劇として非常によくできていて
単行本一冊で映画一本見たかのような満足感が体に残る、
大変素晴らしい作品だったと思います。

色んな人に強くオススメしたいな。