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相変わらずこの無骨な表紙がたまらねえな!

「へうげもの」の山田先生の新作である「望郷太郎」3巻、
読んだので感想を書いていきます。

極寒の世界で見つけた仲間パルの故郷に戻り、
村の存亡を賭けた「祭り」に巻き込まれた太郎。
東の村で奴隷になった太郎は脱走を図る。
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この強烈にパースのついたド迫力のアクション描写!
山田先生の漫画を読んでるって感じがするぜェ~。

2巻を読み返さずに3巻を読み始めたんだけど、
固有名詞が覚えにくくてちょっと混乱してきた。一回整理しなおそう。

元々のパルの故郷が「西の村」。
祭りで西の村を吸収しようとしてたのが「中の村」。
その二つの村より文化が進んでいるのが「東の村」。
そして、その東の村をも支配しているのが「マリョウの国」。

で、西の村と中の村連合と、東の村が戦争直前……って感じか。
3
それから南東に移動し、プーチン大統領が夏休みを過ごしたことで有名な
トゥーバ共和国に逃げていった太郎一行は、採石場に到着する。

「レアメタル」がこの500年後の世界に「通貨」になってるというの、
現代とこの疑似原始世界の価値観を繋ぐ面白い設定だなーと思う。

この巻では、この「金」を用いた交渉がたびたび出てきて
原始時代レベルの文明の中に、「経済」の萌芽が見え始める。
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馬や弓の扱いで全く持ち味を活かせない太郎が「交渉」だったり、
マクロレベルの視野を見せはじめてきて、何故この物語の主人公が
「元会社社長」だったのか
ということが少しずつ見えてきた感じがする。

弱肉強食の時代における「銭の力」という点では、なんとなく
「センゴク」を連想したりもしたなー。
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理路整然としており、基本的に薄情なカリスマタイプではあるのだが、
なんだかんだ情にもろいところが太郎の魅力である。
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周囲に変化や成長を促しつつも、太郎自身も感化され変化していく。
こういうのはやっぱいいよなあ。
人間の「価値観の変化」そのものこそが、物語の一番面白い部分だと思う。
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そして始まる中の村と東の村の戦争。
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マリョウの使者は「見分」として、あからさまに冷淡な態度を取る。
この「文化が下の相手」を見下す感じが実に小憎らしい。

東の村の長アンテさんは悪役的な登場の仕方だったが、実際は村を
デカくしようと必死な苦労人であり、その裏にはマリョウへの復讐心があった。
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アンテさんは豪腕ではあるけど視野も狭いし、行動の動機も厳しく言えば
私情ではあるし、正直魅力的とは言い難いキャラクターではあるが、
割と頑張ったけど終始報われないポジションで気の毒になってしまったぜ。
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「騎兵対策に柵」というのは当然の対応ではあるが、
柵に四苦八苦しているところに弓や猪で損害を強いるとこ見ると
やっぱ「戦術!」って感じがしてテンション上がっちゃうよね。
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キャッチャーミットで矢をキャッチして再利用するシーンは笑ったが、
パルが思ってた以上に超強くて興奮した。
相手が木の鎧のせいで鈍重ということを差し引いても、
「孤軍奮闘」というにはあまりにも余裕がある。

しかしホントに、500年前の残置物が余裕で使えてるよなーこの世界。
まあコンドームが使えてるんだからミットくらい使えるか。
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戦争は太郎の介入で終了したが、憤懣やるかたないアンテは暴走し、
後味の悪い結末が待っていた。

いや、アンテさんホントに踏んだり蹴ったりだぜ……。
まあ村長の器ではなかった、と言えばそれまでではあるんだが。
「地方豪族」以下のスケールですら器じゃないというのも悲しい話だ。
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太郎は「金」の持つ普遍的な魔力とその恐ろしさについて思いを馳せる。
元の世界で為し得なかった、真の自立に彼は近づけるのか。

ただ単に「日本を見て死にたい」くらいのボンヤリした目標で動いていた太郎に
新たなモチベーションが加わって、この壮大なSFの方向性が
少しずつ浮き上がってきたような気がする。

……しかし、単行本売れてんのかなあ?
盛り上げるだけ盛り上げて、突然バツーンと打ち切りとか泣いちゃうぜ。
ウチの兄貴なんて未だに「度胸星」の続編を待ってるんですよ。

ともあれ、しみじみ味わい深い3巻でありました。面白かった。
割と刊行ペースが安定しているので、早く4巻読みたいですね~。