
実はくらげパンチでの連載開始直後からずーっと読んでたんですが、
単行本は持ってなかったので、せっかくなので2巻まで一気に買って
感想を書いてみようと思います。
宜しくお願いいたします。

「会社が倒産&離婚直後に上京したんだけど、ひょんなことからAV男優になりました」
というのがベースで、AV男優目線のエッセイ漫画として話が展開していく。
倒産にせよ離婚にせよ、冷静に考えるとなかなかに厳しい状況であり、
掘り下げたら相当つらいエピソードがもりもり出てくるだろうけども、
そこはある程度「前提」として流していて、悲壮感が漂わないように
チューニングされている印象がかなりある。
(前妻のエピソードも作中ちょっと触れてはいる)
「自暴自棄になってAV男優堕ちした」みたいな風には全く見えないが、
無理してポジティブにしようとしている感じも受けない、
明るくて長閑にすら感じる、独特のとぼけた作風が強みだと思う。
AV男優という職業について、自虐も多少交えつつも決して卑下はしてないし、
一方で自慢めいたことも入れてこないので不快感が無くて読みやすい。
「イヤなやつが出てきてゲンナリ」とか「人間関係がギスギスして緊張」とか
そういう読書ストレスも全然無いのがかなり強み。
AV業界を描いてここまで毒っ気が無い作品もそうそう無いと思う。
「AV男優ってこんな風に仕事してるんだ」という興味深さだけを
安心して楽しむことが出来る。エッセイ漫画として非常に質が高い。

エッセイ漫画は「主人公」の見た目が実はスゲー大事なんだと思うけど、
蛙野さんのこのジェリービーンズ状の表現が非常に愛嬌があって表情豊かで、
なんというか必要十分で素晴らしい。
このテーマなので、主人公の見た目に不快感があると厳しかったであろう。

当然、性描写がモリモリ入ってくるが、生臭い感じにはしてなくて
カジュアルなエロさでこの辺もちょうどいいバランス。
しかし初挑戦でちゃんと勃ってちゃんとイケるの強いと思う。
この辺はかなり「資質」に左右される要素なのではなかろうか。
人前でイケるかなあ。……イケねえだろうなあ。

AV男優の職業エッセイなので、具体的なディティールがもりもり出てくるし、
それらがイチイチ興味深いところ。
このへん、AV女優さんのエッセイになると生臭さが出るというか、
正直「あんま知りたくなかったな……」って落ち込んじゃったりするんだけど、
本作のティティールは大変知的好奇心をくすぐられて良かったです。

性行為一切ナシで棒立ち(性器のことではない)12時間で4500円のエピソードは
さすがに「キツ過ぎる……!」って思いましたね。
日雇いバイトどころかコンビニ以下じゃねーか。

あと女優さんがちゃんと可愛いしちゃんとエロいのが非常にポイント高い。
というか、描線の細さが明らかに違うの笑ってしまう。
ともあれ、全体的に清潔感がある画風で、そういう意味でも読みやすいなと。

それと忘れちゃいけない点として「4コマ漫画でもないのに、オール縦4コマ」という
ありそうであんまり見たこと無いこのコマ割り。
ある種、一本調子ではあるんだけど、読む側としては無駄な情報に意識を割かれないので
これも読みやすさ・テンポの良さに大きく寄与していると思う。

疑似精子の作り方、本当にマズそうで「うぇぇ……」ってなりました。
卵の白身使ってそうだなって思ってたが、やはりか……。

AVで男同士でちんこくっつける映像見るたびに「やってる側はイヤだろうなあ」って
思ってたけど、やっぱりそうだったんだ……という答え合わせが出来て嬉しかった。
嬉しくはねえか。

これも良く見るけど、やるほう大変だろうなあと。
実際お前やれって言われたらムリだわこの動き。
というか発射タイミングの調整という行為自体が出来る気がしない。

このスチール撮影のシーン、なんかエロくて好き。
ということで、総じて読みやすく楽しい、いいエッセイ漫画でした。
「いい思いしてて羨ましい」というのもあるけど、AD業務にせよ男優にせよ
裏側はやはりキツい部分が多くて、とてもマネできないなあという気持ちにさせられる。
同時に「頑張っていいもの作ってくれてることに感謝しよう」と思いました。
当たり前だけど、真剣に作らないといいものにはならんのはどこも一緒か。
連載が続いていくと、多少なり闇部分にも踏み込んでいくのかも知れないけど、
引き続きこの読書ストレスの無い作りをキープしてほしいなと思っております。
2巻も同時に買ったので、書くことあったら感想書くかも。
ご清聴ありがとうございました。