1
ひどく穏やかな雰囲気の表紙だが、なんというか逆に不穏なものを
感じてしまうな……。

ということで、2020年8月に1巻を読んで、そのまま一年近く経ってしまいました
「アスペル・カノジョ」(1巻の感想記事はこちら)。

2巻の感想を書いていきます。宜しくお願いいたします。

一巻の感想でも書いた通り、「ちょっと不安定」というようなレベルでない
リアルな精神的傾斜を抱えた人間が、それでも前に進もうとする物語である。

二巻でも引き続き、具体的なディティールが次々と描かれる。
2
「束縛が多い彼女」とかとは次元の違う対応の面倒くささがある。
語弊を恐れず言うなら、やはりそれは一種の「介助」に近い。

正直「ノーギャラでやるには厳しい」とさえ思ってしまった。
俺が同居していたら一緒になってメンタルが崩れてしまいそうだ。
やっぱ俺、人を支えるような強さが全く無いわ。
3
「普通の人に生まれたかった」という非常にシンプルな想い。

俺も昔、「普通の人が普通に出来ることが俺には出来ない」と
自分を全否定した時期があったけど、アレは一種の自己憐憫に過ぎず
なんだかんだで世に生きづらさを感じるレベルでは全く無かった。

酸素濃度が足りない星に居るような、常に漂う生きづらさと息苦しさ。
そういう世界に生まれたら、自分だったらどうするだろうと考えてしまう。

そして、それを「才能」と全肯定する横井さん。
ある種のレトリックではあるが、少なくとも欠落と捉えるよりは前向きだ。
4
蛾に超ビックリするが、ムカデは平然と対応するエピソード、実にいいなあ。

こう、なんだろ、不謹慎かも知れないけど一種のSF的な異種交流感がある。
「我々とは違うロジックで世界を見ている」みたいな。
5
一方で、横井さんの過去付き合ったエピソード、物凄く感情移入してしまった。

なんだろ、人にペースを合わせて話を聞いてあげたり調子を合わせるの
俺もものすごい苦痛なんだよな……。
「それなら一人のほうがいい」ってなってしまう。
(会社で同僚相手にするのは仕事の一種なので普通に出来る)

若い頃、女性と渋谷を一緒にブラついてるときに「早く帰りたい」って
ずっと思ってたことを思い出す。ただただ会話がつらかった。

今はオッサンになったから多少は我慢出来るようになったかも知れないが、
それでも「多少」であって、マトモな社会人のレベルではまったくない。
本質的に他人に興味がないのかも知れない。
6
外に出たら外に出たで速攻でトラブルを起こす。
大抵の人が「とてもじゃねえけど付き合いきれねえ」ってなりそうな
この厄介事エンカウント率の高さ。

平手打ちの威力にビックリして10秒黙ってしまうのリアルで笑った。
ここで最初に「自分のミスだ」と認識する横井さんホント強靭で凄い。
いやそりゃ平手打ちは普通ビックリするだろ! って思っちゃうよ。
覚悟が違いすぎる。
7
「発達障害とはこういうもの」という大まかなイメージが、
読んでいる俺の中におぼろげに確立されていく感じがある。
まあ「10人いれば10人とも違う」って言われてるんだから、
まるで分からないし分かってないんだと思うけど。

俺も「空気読めない」と言われ続けて大人になった人間だけど、
多分こういう障害的なものでは無かったんだろうなと思う。
単に幼児性が強くと共感能力が低かっただけで。
8
「同病相憐れむ」じゃないが、清水さんが、発達障害持ち目線から論理的に
分析してくれるの、メチャクチャ分かりやすくてだいぶ有り難い。

しかし「崇拝に近い依存」というの、そりゃそうなるわと納得しつつも
やっぱおっかねえわと思わざるを得ない。
9
自分をビンタした相手を本気で気遣い、なんとか少しでも助けようとする
横井さんはもう「タフ」というか「マゾヒスティック」とすら見えて、
「変な性癖持ってる」はさもありなんとすら思ってしまう。

ここでいう「性癖」は正しい使い方と誤用両方の意味で。
10
まあでも「彼女といるのが楽しい」という気持ちがあるから、
別に単なる善意の介護じゃないんだよな。
あんまり言及されないが、ごく単純に可愛いということもあるんだろうし。

しかしこの二人の関係性がどうなっていくのかは、ラブコメ目線とは
全く違った意味で興味深いものがある。
単純に恋人になればいいのかって話だし、共依存みたいになっても
アレだし、着地点はどこになるんだろうマジで。
11
そんななか、今度は隣の部屋にセックス依存症の女性が現れたのは
正直ちょっと笑ってしまった。
「スタンド使いは惹かれ合う」みたいになってるじゃねーか!

ただセックス依存もこれはこれで非常に厄介な症状らしいな……。
症状が症状だけになかなか向き合いづらいものがあるが、
対象はどうあれ依存というのは恐ろしいものがある。

初対面の女連れの男相手に「お手当出すから」ってお願いするのも、
突拍子もなさすぎて度肝抜かれたが、しかしこの「突拍子もない」感じこそが
この作品の肝でありテーマなんじゃないかという気もする。
ここでは斉藤さんは全く怒ったりはしないのがまた興味深いところ。
12
この「カッター持ってると安心する」というの、メチャクチャ生々しくて
ゾッとしてしまった。
自虐や心配してほしくて大げさに言っているのではなく、本当にこの人にとって
人間社会は煉獄の如き世界なんどあと。

ここで語られる「セックスをしない理由」、普通のラブコメとかとはまったく違う
本当になんというか、魂の底に結びつくような次元の話でめまいがする。

二人はキスを交わすが、抱えている問題は「甘いムードでどうにかなる」レベルではない。
これからも地道に、人生をかけて少しずつ変えていけるかどうか……という
なかなか大変な道のりであることが仄見える。

ただなんか、横井さんが基本的にポジティブかつタフなので、読んでいて
不安感にかられないのが漫画としていいバランスだな~って思う。
これで横井さんまで不安定になられると読んでてキツいので。
13
斉藤さんが横井さんの家を突き止めた手法、ソーシャルハッキング的で
なんかスゲー興味深かった。こういうの嬉々として出来るタイプの人居るよな!

偏執的かつロジカルな突き止め方が、らしくていいなあ。
情報の取捨選択に融通が利かないからこそ――という一種の欠落ではあるが、
同時にある種の特殊能力でもある。サヴァン症候群みたいな興味深さがある。

どうも、「興味深い」って表現が増えちゃうな……。
いや、なんか「面白い」って書くと不謹慎な気がしてなあ。
「“funny”じゃなくて“interesting”だよ」って言い訳するのも面倒だし。

……というところで二巻は終了。
次巻予告がものっすごい不穏な感じでドキドキするぜ……。
三巻も手に入れているので、後で読んで感想書こうと思います。

この作品自体は完結してるそうだけど、最後まで読み切れるかしら。
ご清聴有難うございました。