
閉ざされた山間の村に赴任してきた駐在さんが、
家族を守りながら村の秘密に迫っていく「“村八分”サスペンス」。
「ガンニバル」の感想を書きます。
……いやまあ正直、6巻あたりから「“村八分”サスペンス」って感じでも
なくなっては来ているか。
感想書いていきます。宜しくお願いいたします。

いきなりガッチガチの銃撃戦になり、超現実的な状況下におかれても
立ち向かうことをやめない大悟。
妻子が人質に取られた後なら分かるが、前段階でこうなんだから
ただの元暴力警官という言葉では説明がつかないほど、狂った部分を
抱え込んだ男でもある。しびれる。

そして実際、「元傭兵」とかかよってくらい白兵戦メッチャ強くて笑う。
いやフィジカル強くて容赦ない主人公はいいよな。
「射殺しちゃったかもしれない」という考えが頭をよぎりつつも
自分が殺されかけている状況下ではそこに浸っている余裕もなかろうな。

人質を取られて大ピンチになった状況で、洋介が助けに来てくれたのは
素直にテンション上がったなー。
超スナイパーという凄い立ち位置にも関わらず、ここしばらく出てこなくて
忘れかけているだけに「そうか、ここで来てくれたか!」と興奮した。

正直、ここから大悟の妻子が後藤家に奪われるとしたら「大悟が信頼していた
あのオッサンが裏切り者」というパターンしかないだろうなって思ってたら、
予想の斜め上の展開で連れ去られていってビビった。
いや後藤家、本当に動かせる手駒多いし強すぎない?
本当に冗談抜きでオウムとかのレベルの、国家規模の武装テロ集団である。
なんというか、7巻から本作のギアは明確に切り替わった感じがする。
「閉じたムラの中で発酵した悪意の物語」から、
「国家VS後藤家のバリバリ銃撃戦」にジャンルそのものから切り替わったというか。
思えば「ガンニバル」というタイトルもそれを示唆してたりするのかな。
スケールがデカくなった代償として、湿った怖さやリアリティゆえの緊張感が
やや削がれた部分はあるが、バッキバキの白兵戦がド迫力で楽しい。

恵介以外の後藤家の連中、ホントに現代日本の人間かよってくらい
死に躊躇いのないバーサーカーで恐ろしい。
昔気質のヤクザとかとも違って、根底には思考停止気味の狂信があるだけで
義侠心も無いしマジで度し難い。

次の世代に、負の歴史を、怨念を、憎悪を、狂気を「承継」するというテーマ、
なんとはなしに「無限の住人」を思い出したりした。
いや、全然違うテーマの作品なんだけども。
沙村先生とちょっと画風が似てるせいだろうか。
というか今更だが、二宮先生の画面のツメ方すげえよなホント……。
どういう画材で描いているんだろう。

そしてーー西川きよし村長の最後。
村を変えようとして何も変えることが出来ず、愛した相手を救えず理解も出来ず、
本当に最初から最後まで報われない人生で悲しすぎるな……。
恵介と心を通わせた瞬間があるのが、かろうじての救いだろうか。
その恵介に殺されるのだから、ほとほと凄惨極まりない話だ。

そして、後藤家と村民との間の関係性も変化していく。
パワーバランスが崩れてきたんだから、そりゃ当然のことではあるが、
村の連中も(弱きがゆえとはいえ)ロクな連中じゃないんだよな……。
大悟が悪魔呼ばわりは笑ってしまう。
いや確かにアイツ規格外の戦闘力だよなホントに。

そして、ついに直接対峙する大悟と後藤家。
映画とかでよく見るシチュエーションだけど、実際自分の家族の頭に
銃を向けられた状況って想像すると震えるよね……。心が折れてもおかしくない。
そんななか、恐怖や動揺を見せず殺意で塗りつぶされたかのような大悟が頼もしい。
しかし、もう大メインクライマックスであるが、ここからどうなるんだろう。
残り巻数を知らなければ「次で完結もあるのでは?」って思っちゃうレベル。
引き続き続巻を追っていきます。