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ヴィンランド・サガ新刊出たので早速買ってまいりました! 待ってたぜ!
一瞬この表紙見て「トルフィン髪型変わった!?」って思っちゃったよ。

出るの早いな~って思っちゃったけど、前巻から10ヶ月くらい経ってるのか。
でも月刊連載としては普通の刊行ペースだろうし、なにより
「安定して単行本が出ている」というだけで嬉しいものがあるぜ。
ファンからすると、刊行が安定しないのが一番つれえからな……。

感想書いていきます。宜しくどうぞ。
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入植した島にて、いよいよ開拓が本格的に開始される。

前の巻の感想でも書いたけど、やはり「ストラテジー」的な
高揚感と面白さがあって実に良い。
シミュレーションゲームは「軌道に乗せるために頑張ってる序盤」
一番おもしろかったりするんだけど、それに近い楽しさがある。

あと、トルフィンが「農業のプロ」としてリーダーシップを取っている姿も
読者としては非常に感慨深いものがある。
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この水路から水を引き、水周りの不便を減らすことで諍いを避ける、
みたいな話もメチャクチャ地味ながら実に楽しい部分である。

上下水道完備した時代を生きている我々からするとピンとこない話ではあるが、
それゆえに興味深く面白い。

しかし、仮に俺が子供の頃、本作を読んでたら「最近バトルなくてつまらない」って
なってたのかも知れないなあ……などとふと思った。
少年漫画と青年漫画じゃ描き方も変わるよなー、当たり前のことだけど。
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そして先住民との遭遇と交渉。

まずもって「言葉が通じない」というのが物凄いハードルなので、
そこを少しずつ乗り越えて親しくなっていく経緯というのは興味深いものがある。

歴史を見れば「先住民と入植民が良好な関係」というケースは
ごくごく少ないんじゃないかって思うけど、実際割合としてはどうなんだろ。

言語もそうだけど、文化レベルが違うのも差別に直結するからな……。
少しでも反感が生まれれば「この未開の原住民共」という感情にも流れるだろう。
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ミクマウ族については良く知らなかったのでネットで調べたが、
ざっくり言やインディアンみたいな感じなのかな?
そう思うと非常に不吉な暗示ではあるが……。

現代にもまだ数万人が残っているらしい。
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文化交流の旨味みたいなものも描かれる。

トウモロコシやメイプルシロップを見て「わあ珍しい」みたいなの、
なんかほっこりしてしまうな……。

甘味の重要性・希少性は現代人には到底分からないものがあるだろう。
(甘味不足はどちらかというと中世というか戦時中をイメージしてしまうが)
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「良好に始まった」というナレーションが、逆説的に
今後の決裂を暗示しているようで大変不安にさせられる。
実際、本作においてはどういう落とし所が用意されるんだろう。

というか、そもそも本作の物語の結末はどのくらい先なんだろうな。
もう後半に入ってるのか? 或いはまだまだ先なのか?
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先住民側は、長老的なミスグェゲブージュと、少女ニスカワジージュが登場。
落ち着いた人となりではあるが、間違いなく相容れない部分があることを
改めて知らしめる立ち位置である。

長老が見たあの未来図は、表現としてある意味で月並なものかも知れないが、
それでもやっぱり人間の業というか失うもののデカさを思い知らせるには
ああいう表現の仕方が一番いいんだろうなと思わされる。

ニスカワジージュちゃんはシンプルに可愛いデザインで、これから
架け橋として重要なポジションになっていくような感じはある。
ギョロとの絡みが微笑ましい。
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土地の分配を巡り内部でも多少揉め始める。
ここはまだ牧歌的というか、トルフィンのリーダーシップで
まだなんとか治められる範囲ではあるが……。

「土地を所有する」ということへの理解不足を感じるトルフィン。
そうか、確かにこの人、海賊⇒奴隷⇒商人という変遷を経たけど
「土地持ち」になったことないんだったな。

ここに限らず、経験豊富ながら、内容に偏りも大きいところがあり、
思想的にも平和主義に尖りすぎている危ういリーダーではある。
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イーヴァル達は、トルフィンの極端な思想へのアンチテーゼとして
存在しているが、反乱分子や敵対する前提の立ち位置ではなさそう。
イーヴァルはシグやんとかに似たラインの憎めないキャラクターではあるし、
最終的には和解して本当の仲間になっていってほしいところだが……。

とはいえ、読者からしたってトルフィンの非暴力思想はお花畑に見えるので、
どうやって答えを出すのか、現実とすり合わせるのか、は未だ見えてこない。

というか、トルフィンの「不戦・不殺」については結構思想的に
ガッチガチなものというわけでもなくて、その場その場で少しずつ
状況に応じて変化していっているような感覚もある。

蛇の旦那に襲撃を受けたときやヨーム戦士団に攻撃されたときは応戦しているし、
あくまで「非暴力」といっても「無抵抗主義」ではない。
(クヌートと再会するとき100発殴られるあのシーンのせいで無抵抗主義っぽく
 捉えていたけど、それは読者の俺の勘違いだったと思う)
「最低限このラインを超えたら反撃せざるを得ない」という閾値がある。

「暴力は最後の手段」として残しつつも、ソレ以外の手段を模索し続ける、
という点では一貫しているのかな?
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そして本巻ラストはヒルドさんのエピソード。
子供らの教育係になってしまっているヒルドさんが可愛い。

文字読めるし数学・工学的素養があるし、オマケに狩人として一流だから
地味に凄い人なんだよなこの人は。

さすがにこの時代に脱穀機を開発するのは相当なファンタジーで、
歴史もの作品として読んでると「マジで!?」ってなるとは思うんだけど
個人的にその点は、この物語としてはアリかな~という感じで許容範囲内。

ビジュアル的にも、なんか一番美人として描かれている気がする。
明らかにほかの女性キャラより一段美しい。
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そして迎える「その日」の話。
なんか不吉なことが起きる前触れなのかと思って身構えていたので、
その後の展開に素直に感動して普通に泣いてしまった。

思えばこの漫画には「愛する人を殺された人間」が山ほど出てくるのだが、
殺した相手を「赦す」という展開、実はほぼ描かれてこなかったんだよな。

父を殺したアシェラッド当人は「もう憎んではいない」と断言したトルフィンだが、
それを指示したフローキは明確に憎悪し殺そうともした。
アルネイズを殺したケティルの旦那をトルフィンもエイナルも許してはいない。

復習の連鎖と、それに対する抵抗が幾度となく通底するテーマとして描かれた本作で、
初めて明確な「贖罪」と「赦し」が描かれたのは、非常に重要な転換点だったと思う。

俺個人が悔やまれるのは、この展開をある場所でネタバレされていたこと。
知らずに読んだらもっと衝撃を受けていたかも知れない。個人的な話ですいません。

26巻を通して、25巻から引き続きトルフィンがあんまり曇るシーンが無くて
読みやすかったな~、と思ってしまった。
本当に俺はこの作品に対して「トルフィンが苦悩する漫画」という印象が強いようだ。
いや実際、ここ数巻除いてずっと苦悩してなかった?

ともあれ、テンポ良く物語が進捗して、相変わらずの面白さがキープされてて良かった。
毎回言ってるけど、ヴィンランド・サガはずっと面白い。
ずっと面白いって凄いことなんですよ。マジで。バカみたいなこと言ってるけど。

次の巻も楽しみ。