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これは……いい笑顔、いい表紙だなあ。
「いい笑顔」を絵として表現するのは大変なことだろうなあと想像する。
と思うと同時に、なんとなく「二階堂死なないよね?」と不安になってしまうぜ。

将棋漫画の病弱キャラは村山聖ベースという印象があるため、
劇中どっかしらで倒れないか怖くなっちゃうんだよな。
というわけで新刊出まして早速買ってきました3月のライオン。

毎回そうだけど、最新刊読む前に前巻まで読み返すから感想書くのに
えらく時間がかかるぜ(16巻の感想はこちら)。

感想書いていきます。よろしくどうぞ。

■二階堂VS桐山

17巻は前巻に引き続き、わくわくわんこ桐山とガチ二階堂の勝負から始まる。
はしゃぐ桐山と丁寧に受けようとする二階堂の対比が描かれるわけだけど、
やっぱりこの「モノローグだけで間が持つネーム」の凄さには痺れてしまうな……。

勿論、心情描写だけでなく、盤面そのものの解説が並行して織り込まれてくる。
このドライブ感がいいのよね。
雰囲気だけで進めるのではなく、戦局がどうなってるのかをちゃんと表現するという
丁寧さというか誠実さというか執拗さというか。

あとやっぱ「将棋漫画」って、将棋がわからない読者に状況把握させないといけないので、
色んな比喩表現のバリエーションが見れて楽しいのよね。
ハチワンとか月下の棋士とかもそうだけど、ケレン味タップリの比喩大好き。

「奇襲はかける方が怖い」とか「オレが気付いたことに気付いたな?」みたいなのって
将棋に限らず普遍的な「戦術」あるあるでもあって共感しやすい。
勝負事に必ずあるもんなそういうことって。

コミカルにぷっくり太りつつも作中屈指の厳しいバックボーンがある二階堂のバトルは
常にアツイと同時に悲壮感があり、重苦しくなりがちなんだけど
今回は桐山のほうがキャッキャしてたせいでいいバランスで読みやすかった。

前巻の感想でも触れたけど、桐山が「明るい将棋」を指せるようになったというのは
本当にとんでもない前進で、ある意味もうこの作品の目的は達成してるようなモンなんだよな。
極論すれば、この巻で完結しても消化不良じゃないくらい。さすがにそれは言い過ぎか。

■あかりさん、奔走する

商売っ気がまったくないわけではないにせよ「アメリ」みたいなモチベーションで
周囲に幸せを運びつつ太らせようとするあかりさんの奮闘。
このシーンに限らないけど、料理のディティールがいちいち細かくて素晴らしい。

美味しいもの食べて「うまい」「うまい」って姿はいいよなあ、というのは
大変素朴な感覚ではあるが、それだけのエピソードを漫画に描くのって
物凄く特殊なことなんだよな、とも思う。

こんな何も事件も葛藤もない、料理漫画でもないのに料理作るだけのエピソード、
普通なら成立しないというか、編集者に止められるんじゃないかろうか。
でも確かに読んでて面白いし幸せな気分にもなるので、良く分からなくなってくる。

そもそも「料理漫画でもないのに」という考え方が間違っているのかも知れない。
ゴールデンカムイや3月のライオンから料理要素引いたらいかんよな。
明らかに作品を構成する柱なんだから。

とりあえずカレー食べたいなと思いました。カレーは人を幸せにする。
東京出てから本格的なインドカレー屋よく行くようになったけど、最近あらためて
普通の「カレーライス」の美味しさをしみじみ感じるようになってきたよ。

あと、料理描写ってやっぱ料理作る作家さんじゃないとなかなかリアリティ出ないよなあ
などと当たり前のことを思ったりした。
それはサラリーマン描写でもプログラマー描写でも一緒かも知れないけど、料理は特に。
取材だけだとどうしても描きえない当事者ならではのディティールって確かにある。

……と、幸福感・多幸感の強いエピソードではあったんだけど、一方で
あかりさんの動機というか根底にあるのが、望まぬかたちで両親と別れた子供の
「寂しさ」であることも表現されていて、どこかその笑顔には蔭がつきまとう。
無理してはしゃいでいるわけでもないのに常に痛々しさみたいなものがある。

あかりさんの人生は、この物語の中に残されている未解決問題のひとつだよなーと。
でもまあ「彼女が幸せにならないような場所に運ばれることはないだろう」という
作者への確固たる信頼感があるので、読んでいて不安になることはない。

あかりさんの相手候補としては島田さんか先生になるんだろうけど、
なんかどっちでも微妙に不安というか、なんともいえない頼りなさを感じる。
いやもちろん人格的にはどっちも最高の男なので全く不安ないんだけど、なんだろ、
あかりさんの内面の「陰」の部分を開放もしくは昇華出来る感じがしないというか。
自分でも何言ってんだか分かんないんですが。

「あかりさんはメチャクチャポジティブで強い男とくっついて欲しい」という
謎の願望
が俺の中にあるんだよな。弱い人間の気持ちが分かる強い男みたいなの。
まあこっから新キャラ出てきてくっついたら「オイ!」って思うんだけど。
すいませんワケわかんない話して。

■島田さん、弟子に振り回される

若い後輩に優しくしつつも、その内面が意外に明るいものではないこの感じ、
中年男としてなんとなく共感するものがある。

故郷を離れて生活して長い42歳の中年であるオレとしては島田さんに
頑張って結果出して欲しいという応援の気持ちが強い。
人を応援してないで自分が頑張れよ、という話なんですが。

どうあれ、あかりさんとはまた違う意味合いで悲壮なムードがある島田さん。
男女の性差の話ではなく職業的に、彼は勝たないと救われない。
強くなって勝たないと何も得られない戦場にいる。

作家さんや芸能人、スポーツ選手といった「負けたら食えない」生き方というのは、
20年会社員として毎月給料もらって生きているオレには全く理解できない
苦しみとストレスがあるんだろうなあ。想像するほかない。

四ヶ月無職になって固定収入が無くなっただけでメンタル病んだことがあるので、
オレには到底選べない道だっただろうなあと思います。
仮になにかしらのプロでメシ食ってたらどこかで病んでいたと思う。

ひたすら振り回される姿にちょっと頼りなく思っていたタイミングだったので、
最後の「人間なら倒せる」はとてもグッと来ました。
目にもの見せてやってくださいよ! ダンナ!

ちゃんとしたかたちでの桐山VS島田さんは初登場の時以来だろうか。
あのときは後藤さんに気を取られて負けたんだよな、と思いだしてふと
「後藤さんと香子さん最近出番ないな」と思ったりもした。
あの二人にもなんらかの着地点が与えられるのだろうか。

香子さんについては13巻ラストのあの一話で概ね心情が語りきられたので、
あんまり語るべき点が残ってないかも知れない。
もう「引っ掻き回す」ような立ち回りはこの物語に必要ない気がするからなー。

個人的に13巻のあのエピソード切々と重苦しくて大好きなんだけど、
ここまで謎めいていた香子さんの内面が、特に大きな事件があったわけでもなく
一話でフルオープンされて拍子抜けしたような気持ちが当時ちょっとあった。
でもそれが本作らしい表現だなと今は思う。
「後藤さんの奥さんが亡くなって初めて気付く」ではちょっと違うよな。

■17巻全体の感想

極端に言えば、この17巻で起きた出来事はざっくりまとめれば
「桐山、二階堂に勝つ」「あかりさん料理を作る」だけである。

もし本作が「桐山が名人になるまでを描く将棋バトル漫画」だったら
「久しぶりの新刊なのに話が進まねーな!」って言われているだろうが、
話の停滞感などは全く無い。本当にオンリーワンの作風だなあと思う。

15巻あたりから、作品全体を通底していた重苦しく湿ったムードが薄れてきて
明るい気持ちで読めるのがうれしいな。
勿論、「家族との別離」も「イジメ」も「涙」も「敗北」も必要だったし、
だからこそ延々と読んでてカタルシスを感じ続けられるというか。

登場人物の多幸感・解放感を、自分の親戚や家族にめでたいことがあったかのように
共感できる
って本当に凄い読書体験だと思う。なんだか大仰な表現になってしまったが。

どうあれ次の巻も楽しみです。何年後になるだろうか。