
宮下英樹先生の新刊、二冊同時に買ってきたのでまとめて感想書きます。
宜しくお願い致します。

まず「大乱関ケ原」の二巻から。
秀吉薨去から関ケ原までの流れって、もうホント複雑怪奇な政治群像劇なワケで、
各勢力やら個人まで掘り下げていったら週刊連載で30巻40巻ペースでも
終わらない規模になることは想像に難くない。
そこを宮下先生らしくナレーションでゴリゴリ説明していきながら
印象的なセリフや演出でちゃんと物語らしさをギリギリ残していく。熟練の技である。
「センゴク」と比しても「大乱 関ケ原」の読者層は歴史好きが多いと思われるので
ある程度説明を省略出来るということも大きいんじゃないかと思う。
キャラクターで引っ張る分かり易い作劇を敢えてしない硬派で硬骨な作りに痺れる。
もちろん家康の人間味もちゃんと描いてるんだけど。そこによりかからないというか。
家康にせよ三成にせよ「黒幕」ではない、荒れ狂う周辺環境の中で翻弄される
「ひとりの役者」として描写しているイメージ。現実もそうだったんじゃないかと思う。
ただ、有能で生真面目な為政者でありつつ、短気・直情径行でちょっと抜けてる一面もある
本作の家康像は魅力を感じづらい一面もあると思う。カッコ良くはないからね。
まあ「カッコ良くない」ところにこそ核があるとも云えるんだけど。
「老獪狡猾な策略家」とか「清廉実直な理想家」とか「有能辣腕な実務家」とか、
おもいっきり極端な性質だったら乗りやすいんだけど、そこまで傾けて描かない。
概して人間はそんな単純ではない。況や英雄をや、ということか。
キャラ付けにせよ歴史解説にせよ「安易に結論を出さない」というのが宮下先生のスタンスで、
とても誠実で素晴らしいが、メチャメチャ大変だろうなあとも思わされる。
庄内の乱や七将襲撃事件がスルスル描かれるけど、どっちもメチャクチャな事件だよなあ。
「唐入りの後遺症」と集約するのは簡単だが、どっちも「なんだよこれ!?」って感じで始まるし
良くわかんないままダイナミックに展開していく。
島津忠恒は見た目からしてヤベー奴であることが分かるイカすデザインだと思う。
「怖さ」が「政の才」というのは端的な表現で素晴らしいなと思った。
こういう面倒な概念を一つのセリフや演出でスパッと切るのが漫画の良さだと思う。
もちろん「単純化」は誤解を孕むが、そんなこたぁ承知の上で描いているわけで。
そして三成が化けていく姿が二巻後半で描かれる。
宮下先生は「センゴク」から一貫して「戦国大名になる」という瞬間には
重きをおいて描写しているよなー。明らかに人間として一つ別の存在になるというか、
ある意味で非人間的に覚醒するという意味も含まれる。ゾクゾクしますね。
保身・プライド・矜持と人間味あふれる描き方をされる家康に対して
三成はどんどん無感情無表情になっていくのが対称的だ。
象徴的に描かれる二人の「落涙」シーンが実に滋味深い。
で、ここから家康暗殺未遂事件に話が進んでいくわけだけど、
一次史料にあんまり……というか全然エビデンスが無いエピソードを
どういう感じで料理するのか興味が尽きないぜ。
意外と刊行ペースが早くて嬉しい限り。早く三巻が読みたいねー。

それから「神聖ローマ帝国 三十年戦争」のほうも。
俺は戦国時代についても、かじった程度のハンパな知識しかないんですが、
ヨーロッパになると更に全然疎いので、三十年戦争も名前くらいしか知りません。
窓外投擲事件とかハプスブルク家とかも、フンワリと耳にしたことがある程度です。
だからまず「大まかな流れが分かるかどうか」というレベルで読み始めました。
冒頭、セルサスとフリードリヒ五世の掛け合いから始まるんだけど、
こういうの大事だよなって思う。ナレーションやモノローグで始まるより
キャラクター同士の掛け合いから入るのが一番手っ取り早いというか。
有能な若き君主と知性ある道化師のコンビはとてもわかり易く魅力的である。
関ケ原と違って、まず最初にキャラクター描写から入らないと
読者が置いていかれやすいテーマということでもあるんだろうな。
読者みんなが三十年戦争について概要を知っているようなリテラシーではないだろうし。
どうでもいいけど、ハンス隊長がモロ藤堂高虎顔なのはなんでだろう。
一人だけセンゴクのゲストキャラみたいになってて笑ってしまった。
プラハ窓外投擲事件は、やっぱ絵にされると一種ギャグ的な面白さがあるな……。
いや、全然笑い事じゃないんだけど、刃傷沙汰じゃなく「投擲」というのがなんか。
というか実際、なんで「投擲」なんだろう。武器が持ち込めないから?
殺害が目的ではなく(実際死んでないし)「受け入れない」という意思表示的なことなのかな?
そのくらいのレベルで良くわかってないです。
後で調べたら、本作の投擲事件は「第二次プラハ窓外投擲事件」で、
第一次はもっと凄惨な内容でびびった。まあ中世だもんな……。
傭兵マンスフェルトは、出てきた瞬間にもう曲者感ビンビンでとてもワクワクするぜ。
ググったらマジで肖像画まんまの顔だった。
一巻を読み終わってみて「おおまかな流れが頭に入らない」なんてことは全く無く、
かなり気を配ったネーム構成だったんだろうなと唸るばかりである。
良く知らない時代であるからこそ興味深く、面白く読めた。
こっちも続きが楽しみであるが、売れ行きは大丈夫だろうかと要らぬ心配をしてしまう。
ジャケ買いとかテーマに引かれて買う人あんま居ないような気がする。
「歴史群像」の愛読者層が漫画買うもんだろうか? そのへんは分からない。
まあ俺が心配するこっちゃねえか。続きも楽しみです。